我々はAIについて、暮らしを便利にするものだというイメージを抱いています。それは間違いないのでしょうが、AIの実用化が進むにつれて、本当に幸福量が増えるのかどうかは、正直なところ何とも言えません。それは専門家の間でも結論を見ていない問題なのです。利便性が高い社会に不安を覚えるというのは不思議な心理機制ですが、実際我々はそのように感じています。それは、AIがオートノミーの問題と深く関わるからです。つまりAIが人間の本質に触れてしまうのであれば、途中で放り投げた方が良いのではないかと考え始めるわけです。人にとって幸福とは、個々の価値基準で決まるものです。また時代が変われば社会の価値観も変化します。例えば日本は戦後、しばらくの間貧困の解消が最優先事項でしたが、経済成長した後は、価値意識が多様化しました。ですから現在何を大切にしているのかは個人的な問題であり、AIとの関連性は益々分からなくなっています。AIだけではありません。核兵器やゲノム解析、クローン、脳科学といった分野の研究を危険視する向きも一部にはあります。反対する彼らもその理由を明確に認識できていないのですが、何となく自分の価値観に反する研究であるように思われるのです。こうした不安を汲み取り、無際限な技術開発に警鐘を鳴らしたのが、SDGsと呼ばれる取り決めでした。このSDGsを読めば、先進技術で誰かが便利だと感じても、別の誰かが不幸になるかもしれないという認識を持つことが大切だと分かります。このSDGsを念頭に置いた開発が続けられれば、ひょっとすると誰もが満足できる正解を科学技術が作り上げられるのかもしれません。